- いきなりブログを始めたのもこの本を読んだ影響かもしれない。社会人になって10年たったが、できそこない学生はそのままできそこないの新社会人になり、しばらくかなり苦労した。「イシューからはじめよ」に代表されるビジネス本でひたすら生産性を上げるトレーニングを積んだ結果、それなりに力をつけられた自負はある。ただし、ここ数年生産性に取りつかれた思考が日常生活まで拡大し、むなしさを感じていた。「限りある時間の使い方」を読んだとき、初めて「この本は自分のために書かれたのだ!(陳腐)」と感じた。このむなしさについて看破していたからだ。
※「イシューからはじめよ」は名著で、ビジネス本の中で最高レベルに感謝している。
本書は中毒的に生産性を上げることへの警鐘からはじまる。生産性を上げた先に何があるのか?生産性を上げ、一切の無駄をなくし時間をコントロールすることで、理想の自分に近づくと勘違いしているのではないか?そもそもそんな理想的状況などあるのか?時計がない時代、時間という概念自体がない時代の生活とはどうだったのか。時間に追われる現代よりも豊かな側面があったのではないかという話から始まり、現実を直視することの重要性へと展開される。「七つの習慣」で紹介される石をタスクに見立て容器に隙間なく敷き詰めるエピソードの勘違いにも言及する。石のように時間を効率的に詰め込もうとしてはならないと。
現実の自分(の状況)をまず受け入れ、それでもその不完全な現実に集中することで、本当に豊かな時間を過ごせるのであるというのがこの本のメッセージだ。生産性や効率を追い求めると無意識にでも先のことを考えたくなるが、これをぐっとこらえ目の前の現実に集中する。先のこと(未来)という存在していないものに意識が向かいすぎると、永遠に今を生きることができない、来るかもわからない先のことへの準備に今という大切な時間を使いつづけることになる。これらのメッセージが、数年来感じていたむなしさの正体だということに気づいた。
この本を読んで思い出すのが、リリー・フランキーがアカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞したときに語ったエピソードだ。画家の大竹伸朗の「先のことなんて考えてもしょうがない。だって、その通りの未来になったことがないんだから。だから先のことは考えずに、俺は今日絵を描くんだ」という言葉に触れていた。楽しいことや明るい未来の展望について考えるのは別に悪いことでないが、先のことばかり考えると「今日絵を描く」喜び、幸せ、達成感を延々と先延ばしにすることになる。たとえ一会社員だとしてもこの言葉は心にとめておきたい。失敗しないようにマイルストーンをどこに置くかばかり考えるのではなく、目の前の実験にフォーカスして楽しんでいく。そんなふうに材料の開発を、生活を楽しんでいきたい。自己啓発本を読んでうるっとくることになるとは。
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